ジャンルを越えて何かと話題だった『俺物語!!』が終わりました。

『別冊マーガレットsister』(『別冊マーガレット』2011年11月増刊号)に読み切りとして掲載された第1話が好評だったため、続編となる第2話が『別冊マーガレット』2012年1月号に掲載され、以後2016年8月号まで連載された。単行本は全13巻。日販“この1巻がキテる!フェア”対象銘柄。「第1回マンガ秋100」にて第1位、2013年版「このマンガがすごい!」オンナ編1位。2013年に講談社漫画賞 少女部門、2016年に第61回小学館漫画賞 少女向け部門を受賞。2014年11月にアニメ化が発表され、2015年4月から9月まで放送された。2015年5月に発売された『別冊マーガレット』の6月号では実写映画化が発表され、同年10月31日に公開された。

 最終巻の帯には「世界を変えたまんが、堂々完結!」とありますが、メディアミックスとしても成功を収めているので納得ですね。剛男の最後まで全力のカッコよさ(はぁと)に、ぼくも心が震えました。 「好きだ」という言葉がここまで何回も出てくる作品もなかなか無いのではないでしょうか。もちろん剛男としては、好きだ! という気持ちを突き詰めた結果として行動のみならず言葉として外に溢れでてしまっているだけなんですけどね、”好きな人に好きって伝える、それはいちばん素敵なことさ”という歌を思い出します(余談ですが、Aqua Timezは先に一度ギュッと抱きしめたほうが早いだろって歌っています)。好意を伝えるには言葉が先なのか、それとも言葉なんて不要なのか。先に好きって言わせることで関係性のプライオリティを優位にするゲームに参加したことがある人たちにとってはなかなかに難しいところでしょうか。ぼくにはよくわからない話だけれども。


 ぼくが『俺物語!!』に出会ったのは、知り合いのキモオタから「お前このマンガぜったい好きだよ」と言われたのがきっかけでした。当時はまだ2巻までしか出ていなかったので、すぐ読んでみることにしたのですが、穢れたぼくの心には致死量レベルの胸キュン内容で、日比谷線のなかで悶絶していました。ぐぉぉぉ。ぐぉぉぉ。ハッピーからのハッピー。ハッピーに次ぐハッピー。お決まりの鬱展開かと思いきやas happy as ever、舞城王太郎も顔負けの好き好き大好き超愛してる。作中で剛男はたくさんの人たちに愛されていますが、次元を越えた人々のハートもしっかりキャッチしているのでした。これはもはや天賦の才であって、剛男はゴリラを彷彿とさせる顔面と身長2m・体重120㎏(?)というその巨躯故に女子からモテないという設定ですが、原作者の河原和音さんは”時代をブサメン”という煽り文句に「猛男の容姿は決してブサイクではない」と反駁しており、勉学は苦手という欠点も最終的には克服してしまう剛男はまさにパーフェクトヒューマンでまさに天才。剛男に感化されマネしようと思った人も多いだろう。だって、剛男のやっていることは実にシンプル。「好きな人に全力で好きと伝える」、これだけである。出来そうである。マジでイージー。それくらい余裕っすわと紫煙を燻らせる。 しかし、既に勝敗は決しているのである。なぜなら剛男は天才だからだ。そもそも身長2m・体重120㎏(?)という体格からすでにセンスの塊だし、実際、柔道着を纏った剛男は木村政彦に匹敵する実力の持ち主。強きを挫き弱きを助く武道の極意を高校生で修得し、人々の気持ちを支配するのではなく自然と愛される気質。「俺も剛男みたいに振舞えば、或いは……」なんて思った時点でジ エンド。ぼくたちのような凡愚は、失礼、少なくともぼくは、彼を崇めるしかないのである。近づくことは出来る。しかし古来から神の領域に足を踏み入れるのは禁忌なのだ。だから女性の皆さまにおかれましてもぼくたちに何も求めないで頂きたい。マジでソーリー。


 剛男のマネはしなくていい。無理だから。無茶だから。しかし、無駄ではないだろう。全力で好きって伝えることは、時に自己中心的かもしれない。一方通行的で、すれ違うこともあるかもしれない(こういった心の機微はきちんと作中でも描かれている。だから共感できるのだ。そして、共感できるということは、人気が出るということでもある)。だけど、人は、相手の気持ちに応えようとしてくれるものだ。全力で好きと伝えた結果としての全力のごめんなさいは、優しさだろう。そういう優しさに触れると、ぼくは、失礼、多くの人たちは、誰かのために優しくなれるものだと思う。何も恋愛に限ったことでもない。全力で物事に取り組めばそのぶん痛みも喜びもずっと大きいはずだ。結果より過程が大事だと限らないが、全力で取り組んだ場合のみ、失敗という結果もただの失敗で終わらないという不思議な性質を帯びる。剛男のマネはしなくていい。でも、もう少しがんばってみようかしら、そう思えればいい。幸せがそう思うことから始まるように。『俺物語!!』を読んで、そんなことを、ちょっと真面目に考えるのでした。